前回の埋め込みを、検索と回答に組み込む

前回の埋め込みを、検索と回答に組み込む

前回のT-06では、文章の意味の近さを数値の並び、つまり埋め込みベクトルとして表せることを学びました。「タクシー代」と「交通費」が、文字は違っても近い値になる、という性質です。この講義は、その性質を実際の検索と回答に組み込む回です。意味の近さで資料を探す「ベクトル検索」と、それを回答に活かす「RAG」という仕組みを、順に見ていきます。

このスライドのポイント

  • T-06: 文章の意味の近さを、数値の並び(埋め込みベクトル)で表せると学んだ
  • 「タクシー代」と「交通費」は、文字が違っても近い値になる性質
  • この講義の役割: その性質を実際の検索と回答に組み込む
  • 学ぶ順: 意味で探す「ベクトル検索」→ それを回答に活かす「RAG」

定義とRAGの5段階

定義とRAGの5段階

まず言葉を定義します。ベクトル検索とは、埋め込みの近さを使って、質問に意味の近い資料を探す検索のことです。そしてRAGとは、その検索で見つけた資料を、コンテキスト、つまりモデルへの入力に追加してから回答させる構成を指します。RAGは5つの段階で動きます。第一に、資料を事前に埋め込み化して保存します。これはL章で学んだデータベースの一種で、ベクトルに対応したものです。第二に、利用者の質問も埋め込み化します。第三に、質問に近い資料を検索します。第四に、その資料と質問をまとめてモデルへ渡し、第五に、渡した資料に基づいて回答させます。

このスライドのポイント

  • ベクトル検索: 埋め込み(T-06)の近さで、質問に意味の近い資料を探す検索
  • RAG: 検索で見つけた資料をコンテキスト(T-02)に追加してから回答させる構成
  • RAGの5段階:

なぜ必要か——重い誤解ではなく軽い正解

なぜ必要か——重い誤解ではなく軽い正解

この仕組みを知らないと、「AIが自社のルールを知らない」という課題に、間違った打ち手を選んでしまいます。「モデルにルールを覚え込ませる」という発想は、専用の再学習を伴う重くて高価な方法で、日々変わる社内ルールには向きません。RAGなら、資料を検索して毎回渡すだけの軽い方法で、同じ目的を達せます。さらにRAGは、A-06で学んだハルシネーション、つまりもっともらしい嘘への本命の対策でもあります。根拠となる資料を渡してから答えさせるからです。

このスライドのポイント

  • 知らないと「AIが自社のルールを知らない」に間違った打ち手を選ぶ
  • よくある誤解: 「モデルにルールを覚え込ませる」=専用の再学習を伴う重く高価な方法。日々変わる社内ルールには不向き
  • RAGは、資料を検索して毎回渡すだけの軽い方法で同じ目的を達する
  • RAGはA-06のハルシネーション対策の本命(根拠を渡してから答えさせる)

構造——「全部入れない」の答え合わせ

構造——「全部入れない」の答え合わせ

全体像を1枚で見ます。5つの段階は、事前準備と、質問が来てからの処理に分かれます。資料の埋め込み保存だけが事前準備で、残りは質問のたびに動きます。ここで思い出してほしいのが、前回T-02で見た「全部は入れない、必要な分だけ検索して入れる」という設計です。RAGは、まさにその答え合わせになっています。そしてRAGの強みは、回答に出典、つまりどの資料に基づいて答えたかを添えられることです。

このスライドのポイント

  • 5段階は「事前準備(①)」と「質問のたびの処理(②〜⑤)」に分かれる
  • T-02で学んだ「全部は入れない、必要な分だけ検索して入れる」の答え合わせ
  • RAGの強み: 回答にどの資料に基づいたかの「出典」を添えられる

具体例——経費規程に答えるAI

具体例——経費規程に答えるAI

経費アプリで考えます。「経費規程に答えるAI」を作るとします。まず経費規程のPDFを、段落ごとに埋め込み化して保存しておきます。利用者が「タクシーは何時から使えますか」と聞くと、その質問に意味の近い条文が検索されます。見つかった条文を質問と一緒にモデルへ渡し、条文に基づいた回答と、根拠にした条文の出典を表示します。規程が改定されても、保存した資料を差し替えるだけで済みます。モデルを作り直す必要はありません。

このスライドのポイント

  • 「経費規程に答えるAI」を経費アプリに足す想定
  • ①規程PDFを段落ごとに埋め込み化して保存
  • ②〜③「タクシーは何時から使えますか」→ 近い条文を検索
  • ④〜⑤条文を質問とともにモデルへ → 条文に基づく回答+出典表示
  • 規程が改定されても、保存資料を差し替えるだけ(モデルの作り直し不要)

技術サンプルカード(RAG5段階フロー)

技術サンプルカード(RAG5段階フロー)

このスライドには、RAGの5段階を1本のフローとして起こした図を載せています。事前準備で資料を埋め込み化して保存し、質問が来たら、質問の埋め込み化、近い資料の検索、資料と質問の結合、モデルの回答、そして出典の表示までが一本の線でつながります。読み方の要点は2つです。1つ目、回答の品質の大半は、3段階目の検索の精度で決まります。近い資料が見つからなければ、正しく答えることはできません。2つ目、保存した資料を定期的に更新する運用が、S-01で学んだ定期作業として欠かせません。

このスライドのポイント

  • 種別: diagram
  • 目的: RAGの5段階と出典表示のつながりを1本のフローで確認する
  • サンプル本体:

混同しやすい概念——教え込む vs 毎回渡す

混同しやすい概念——教え込む vs 毎回渡す

混同しやすい2つを比べます。1つは「モデルに知識を教え込む」こと、もう1つは「RAGで毎回渡す」ことです。教え込む方法は、モデル自体を再学習させる重い手段で、費用も時間もかかり、実務ではまれです。RAGは、必要な資料をその都度コンテキストに渡す軽い手段で、更新も差し替えも簡単なため、社内知識のAI化ではほとんどがこちらです。同じ「知識を持たせる」でも、教え込むのではなく毎回渡す、という違いを押さえてください。

バイブコーディングでの確認点

バイブコーディングでの確認点

RAG機能を確認するときは、2つの点を必ず見てください。1つ目は、回答に出典が表示されるか。根拠の資料をたどれることが、信頼の土台になります。2つ目は、該当する資料が見つからなかったときに、モデルが正直に「分からない」と言う設計になっているかです。ここで無理に答えを創作させると、A-06のハルシネーションを自ら招いてしまいます。見つからないとき正直に分からないと言う設計こそ、RAGの最終防衛線です。AIへはこう聞けます。「検索で資料が見つからないとき、このAIは何と答える設計ですか」。

このスライドのポイント

  • RAG機能では必ず2点を確認する

一問一答とまとめ

一問一答とまとめ

一問一答です。「RAGで会社の知識をAIに答えさせる仕組みの本質は何でしょうか」。……答えは、関連する資料を検索して、毎回コンテキストに渡すことです。モデルに教え込むのではありません。30秒まとめです。ベクトル検索は意味の近さで資料を探し、RAGはその資料を渡してから答えさせます。品質は検索精度で決まり、出典表示と「分からないと言う設計」が信頼を支えます。次回T-08では、資料を渡すだけでなく、自律的に動くAIエージェントと、その手綱である承認境界へ進みます。関連資料は「RAG入門ガイド」「RAG構築ツール比較」「MCP入門ガイド」です。

このスライドのポイント

  • 一問一答: 「RAGで会社の知識をAIに答えさせる仕組みの本質は?」→ 関連資料を検索して毎回コンテキストに渡す(教え込むのではない)
  • 30秒まとめ: ベクトル検索は意味の近さで資料を探し、RAGはその資料を渡してから答えさせる。品質は検索精度、信頼は出典表示と「分からないと言う設計」
  • 次回T-08: 自律的に動くAIエージェントと、その手綱である承認境界へ
  • 関連資料: 「RAG入門ガイド」「RAG構築ツール比較」「MCP入門ガイド」