カテゴリN最終回——設計を「実際の技術」に落とす

カテゴリN最終回——設計を「実際の技術」に落とす

前回のN-09では、可用性・拡張性・保守性という3つの品質を区別しました。品質の優先順位が決まると、次は「それをどの技術で実現するか」という選択が待っています。この講義は、カテゴリN設計章の最終回です。設計で決めた構造を、実際の言語やデータベース、サービスに落とし込む判断の軸を整えます。ここでも判断するのは人間で、AIは比較を助ける相棒です。

このスライドのポイント

  • 前回N-09: 可用性・拡張性・保守性という3つの品質を区別した
  • 品質の優先順位が決まると、次は「どの技術で実現するか」の選択
  • 本講義はカテゴリN(設計章)の最終回
  • 判断するのは人間、AIは比較を助ける相棒

技術選定とトレードオフの定義

技術選定とトレードオフの定義

技術選定とは、使う技術、つまり言語やデータベース、サービスを決める判断のことです。トレードオフとは、何かを得ると何かを失う関係を指します。速さを取れば費用がかさみ、簡単さを取れば自由度が減る、といった具合です。技術を選ぶ基準は6つあります。慣れ、つまり学習コスト。要件適合、M章で決めた要件に合うか。運用、自分で面倒を見られるか。費用。制約、会社の規程など。そして将来変更、乗り換えやすさです。万能な技術は存在しない、というのがこの6基準の出発点です。

このスライドのポイント

  • 技術選定=使う技術(言語・データベース・サービス)を決める判断
  • トレードオフ=何かを得ると何かを失う関係(速い⇄安い、簡単⇄自由度)
  • 選定6基準: ①慣れ(学習コスト)②要件適合(M章)③運用(自分で面倒を見られるか)④費用 ⑤制約(会社の規程等)⑥将来変更(乗り換えやすさ)
  • 出発点: 万能な技術は存在しない

なぜ必要か——問いの形を間違えないため

なぜ必要か——問いの形を間違えないため

この基準を持たないと、「一番良い技術はどれですか」という問いをAIに投げ続けることになります。ところがAIの答えは、聞き方や文脈によって毎回変わります。振り回される原因は、問いの形が間違っていることにあります。正しい問いは「この条件で、何を優先するか」です。技術そのものに絶対の優劣はなく、条件しだいで答えが変わる、と理解しておくことが大切です。

このスライドのポイント

  • 基準がないと「一番良い技術はどれ?」と問い続けてしまう
  • AIの答えは聞き方や文脈で毎回変わる → 振り回される
  • 原因は問いの形が間違っていること
  • 正しい問い: 「この条件で、何を優先するか」

構造——天秤・比較表・理由の記録

構造——天秤・比較表・理由の記録

技術選定は、天秤で考えると分かりやすくなります。片方の皿に得るもの、もう片方に失うものを乗せ、6基準の優先順位に従って傾きを見ます。ここで使うのが6基準の比較表です。候補ごとに、慣れ・要件適合・運用・費用・制約・将来変更の各欄を埋め、優先度の高い基準を重く見ます。もう一つ大切な実務があります。選んだ理由を記録しておくことです。後から見直せるようにする——これはB-10で学んだバージョン記録と同じ思想です。

このスライドのポイント

  • 天秤で考える: 得るものと失うものを乗せ、6基準の優先順位で傾きを見る
  • 6基準の比較表: 候補ごとに各欄を埋め、優先度の高い基準を重く見る
  • 実務注記: 選んだ理由を記録する(後から見直せる)
  • これはB-10で学んだバージョン記録と同じ思想

具体例——経費精算アプリのDB選定を6基準で

具体例——経費精算アプリのDB選定を6基準で

経費精算アプリのデータベース選定を、6基準で実演します。候補は、参照スタックのPostgreSQLにBaaSを組み合わせる案です。慣れの基準では、学習済みで扱える。運用の基準では、BaaSが管理を肩代わりしてくれる。費用の基準では、小規模なら無理のない範囲に収まる。この3基準がこの案を支持します。一方で、細かい制御の自由度は下がるという失うものもあります。大切なのは結論そのものより、6基準という物差しを一つずつ通したという過程です。基準を通せば、後で誰かに理由を説明できます。

このスライドのポイント

  • 候補: 参照スタックのPostgreSQL+BaaSを組み合わせる案
  • 慣れ: 学習済みで扱える/運用: BaaSが管理を肩代わり/費用: 小規模なら無理のない範囲
  • この3基準が支持する
  • 失うもの: 細かい制御の自由度は下がる
  • 価値は結論より「6基準を一つずつ通した」過程にある

技術サンプルカード——選定依頼の定型

技術サンプルカード——選定依頼の定型

サンプルの種別はpromptです。目的は、技術の候補をAIに公平に比較させることです。ここで渡す優先順位こそが、人間の仕事の核心です。読み方の要点は2つあります。1つ目、優先順位を決めて渡すのは人間で、比較の網羅はAIの仕事だということ。2つ目、条件を具体的に書くほど、比較の精度が上がるということです。この定型文を、技術を選ぶたびに使い回してください。

混同しやすい概念——「一番良い技術」vs「妥当な技術」

混同しやすい概念——「一番良い技術」vs「妥当な技術」

混同しやすいのは、「一番良い技術」と「この条件で妥当な技術」です。前者は存在しません。後者は、基準を通した選定の成果です。よく使われる「人気」も、絶対の基準ではなく数ある基準の一つにすぎません。ただし人気には捻りがあります。情報が多い技術ほどAIの学習量も多く、A-06で学んだハルシネーションが起きにくくなる、という実利があるのです。それでも人気は判断材料の一つ、と位置づけておきましょう。

バイブコーディングでの確認点——失うものを聞く

バイブコーディングでの確認点——失うものを聞く

バイブコーディングでの確認点です。AIに技術をおすすめされたら、必ず一つ聞いてください。「この選定のトレードオフ、つまり失うものは何ですか」と。失うものを言えない推薦は信用しない——これを合言葉にします。得られる利点だけを並べた推薦は、比較になっていません。失うものまで示されて初めて、あなたは条件と照らして判断できます。

このスライドのポイント

  • AIに技術をおすすめされたら必ず聞く
  • 質問: 「この選定のトレードオフ、つまり失うものは何ですか」
  • 合言葉: 失うものを言えない推薦は信用しない
  • 利点だけを並べた推薦は比較になっていない

まとめ——一問一答と次への橋渡し

まとめ——一問一答と次への橋渡し

最後に一問一答です。技術選定で最初に確認すべきなのは、技術の性能と自分の条件、どちらでしょうか。……答えは、自分の条件です。条件が優先順位を決め、優先順位が選定を決めます。30秒まとめです。技術選定は6基準で比較し、トレードオフを見極め、選んだ理由を記録する。万能な技術は存在せず、失うものを言えない推薦は信用しない。これでカテゴリNは修了です。設計の判断軸が揃いました。次回からはカテゴリO、変更を安全に管理するGitへ進みます。関連資料は「AI開発ツール比較表」「ノーコード・ローコード比較」「AI開発ツール別の向き不向き」です。

このスライドのポイント

  • 一問一答: 技術選定で最初に確認すべきは、技術の性能と自分の条件のどちら? → 自分の条件(条件が優先順位を決め、優先順位が選定を決める)
  • 30秒まとめ: 6基準で比較し、トレードオフを見極め、選んだ理由を記録する/万能な技術は存在しない/失うものを言えない推薦は信用しない
  • カテゴリN修了。設計の判断軸が揃った
  • 次回: カテゴリO、変更を安全に管理するGitへ
  • 関連資料: AI開発ツール比較表/ノーコード・ローコード比較/AI開発ツール別の向き不向き