前回との接続とこの講義の役割

前回との接続とこの講義の役割

前回のM-06では、非機能要件として速度やセキュリティなどの品質条件を、測れる形で書くことを学びました。ここまでで、作る対象と満たすべき条件がひととおり揃っています。ただし、揃った条件を最初から全部いちどに作るのは危険です。この講義では、まず何を確かめるかを決めて、そのために必要な範囲だけを切り出す考え方を扱います。

このスライドのポイント

  • M-06: 非機能要件(速度・セキュリティなど品質条件)を測れる形で書いた
  • ここまでで「作る対象」と「満たすべき条件」がひととおり揃った
  • 揃った条件を最初から全部いちどに作るのは危険
  • M-07の役割: まず何を確かめるかを決め、そのための最小範囲を切り出す

仮説とMVPの定義

仮説とMVPの定義

まず2つの言葉を定義します。仮説とは、確かめたい思い込みのことです。たとえば、申請者はスマホから申請したいはずだ、という予想がこれにあたります。MVPとは、その仮説を検証するのに必要な最小の範囲で作ったものです。ここでいちばん大事なのは順番で、何を検証するかが先、何を作るかが後になります。検証に関係しない機能は、たとえ重要でも、今回のMVPには入れません。重要かどうかと、いま検証に必要かどうかは、別の問いだからです。

このスライドのポイント

  • 仮説=確かめたい思い込み(例: 申請者はスマホから申請したいはず)
  • MVP=その仮説を検証するのに必要な最小の範囲で作ったもの
  • 核心の順番: 何を検証するかが先、何を作るかが後
  • 検証に関係しない機能は、重要でも今回のMVPには入れない

なぜMVPが必要か

なぜMVPが必要か

この区別を知らないと、とりあえず小さく作ろうという掛け声のもとで、ただ機能を減らしただけの未完成版ができあがります。何を確かめたいかが決まっていないため、使ってもらっても学びが得られず、小さく失敗するだけで終わります。作るのが速くなった今は、機能を足すことよりも、何を作らないかを判断することのほうが、大きな価値を持ちます。何を作らないかを決めることは、機能を我慢することではなく、学びを最短で得るための積極的な選択です。

このスライドのポイント

  • 「とりあえず小さく作る」だけでは、機能を減らしただけの未完成版になる
  • 何を確かめたいかが無いと、使ってもらっても学びが得られない
  • 結果、何も検証できないまま「小さく失敗」する
  • 作るのが速くなった今は、何を作らないかの判断こそが価値になる

MVPが回るループ

MVPが回るループ

MVPは一度作って終わりではなく、ループとして回します。仮説を立てる、検証に必要な最小機能を決める、MVPを作る、使ってもらって学ぶ、そして次の仮説へ、という流れです。極端な例として、あるファイル同期サービスは、実物を作り込む前に動作イメージのデモ動画だけを公開し、欲しい人がどれだけいるかを確かめました。実物さえ作らずに仮説を検証した、MVPの考え方をつきつめた事例です。

このスライドのポイント

  • MVPは一度で終わりではなく、ループとして回す
  • 仮説→検証に必要な最小機能→MVP→使ってもらい学ぶ→次の仮説
  • 極端な例: あるファイル同期サービスは、実物を作る前にデモ動画だけで需要を確かめた
  • 実物さえ作らずに仮説を検証した、MVPの考え方をつきつめた事例

経費精算アプリでの具体例

経費精算アプリでの具体例

経費精算アプリで考えます。仮説は、移動中にスマホで申請できれば月末のまとめ申請が減るはずだ、とします。この仮説を確かめるだけなら、必要なのはスマホの申請フォームと申請一覧だけです。承認、集計出力、通知は、業務には必要でも、この仮説の検証には関係しないので今回は作りません。そして2週間使ってもらい、申請がいつ発生しているかを観察します。ここで得た学びが、次に作るものを決めます。

このスライドのポイント

  • 仮説: 移動中にスマホで申請できれば、月末のまとめ申請が減るはず
  • この仮説の検証に必要なのは、スマホの申請フォームと申請一覧だけ
  • 承認・集計出力・通知は、業務には必要でも今回の検証には関係しないので作らない
  • 2週間使ってもらい、申請がいつ発生しているかを観察して学ぶ

技術サンプルカード: MVP設計3点セット

技術サンプルカード: MVP設計3点セット

スライドのMVP設計3点セットは、仮説、検証方法と指標、作る最小範囲と作らない機能リストの3つで構成します。ふつうの要件一覧との最大の違いは、作らない機能リストの欄があることです。作らないものを明記できて初めて、これはMVP設計だと言えます。AIには、この企画の仮説を1文にして、検証に不要な機能を要件一覧から除いてください、と頼むと、この表を一緒に作れます。

このスライドのポイント

  • 種別: table
  • 目的: 仮説から作る範囲を決める「MVP設計3点セット」を1枚で持つ
  • サンプル本体:

混同しやすい概念: MVPと未完成版

混同しやすい概念: MVPと未完成版

混同しやすいのが、MVPと未完成版です。見た目はどちらも機能が少ないアプリで、区別がつきにくく感じます。しかし本質はまったく違います。MVPは仮説検証のための最小セットで、確かめたい仮説がはっきりあります。未完成版は、ただ機能が足りていないだけで、確かめたいことがありません。両者を分けるのは、検証したい仮説があるかどうか、この一点です。

このスライドのポイント

  • MVP=仮説検証のための最小セット(確かめたい仮説がある)
  • 未完成版=ただ機能が足りていないだけ(確かめたいことがない)
  • 見た目はどちらも機能が少なく、区別がつきにくい
  • 両者を分けるのは「検証したい仮説の有無」のただ一点

バイブコーディングでの確認点

バイブコーディングでの確認点

バイブコーディングでの確認点です。AIに、MVPで作ってと頼む前に、確かめたい仮説を1文で書けるかを自分に問います。もし1文で書けないなら、それはMVPの段階ではなく、まだM-01で見た企画、つまり何を作る価値があるかを決める段階にいます。仮説が書けてから、AIへの依頼に進みます。逆に言えば、仮説を1文で書ければ、そこから作る範囲と作らない範囲を機械的に絞り込めます。

このスライドのポイント

  • AIに「MVPで作って」と頼む前に、確かめたい仮説を1文で書けるか自問する
  • 1文で書けないなら、それはまだMVPの段階ではない
  • その場合はM-01で見た企画(何を作る価値があるか)の段階にいる
  • 仮説が1文で書けてから、AIへの依頼に進む

まとめと次回

まとめと次回

一問一答です。MVPと未完成版を分けるものは何でしょうか。(間)答えは、検証したい仮説があるかどうか、です。30秒でまとめます。仮説とは確かめたい思い込み、MVPはそれを検証する最小範囲であり、何を作らないかを決めることがMVP設計の核心でした。次回のM-08では、要求を利用者の言葉で書くユーザーストーリーへ進みます。関連資料はMVP設計テンプレートと、個人開発のMVP設計シートです。

このスライドのポイント

  • 一問一答: MVPと未完成版を分けるものは?
  • 答え: 検証したい仮説の有無
  • 30秒まとめ: 仮説=確かめたい思い込み、MVP=それを検証する最小範囲、核心は「何を作らないか」
  • 次回: M-08 ユーザーストーリー
  • 関連資料: MVP設計テンプレート、個人開発のMVP設計シート