前回との接続とこの講義の役割

前回との接続とこの講義の役割

前回のM-09では、完成の判定線となる受入条件を、誰が見ても同じ判定になる観測可能な形で書きました。要件やユーザーストーリー、受入条件までそろうと、作りたいものは一通り言葉になります。しかし現実には、それらを一度に全部は作れません。この講義では、価値のある機能に順番をつけ、今回作る範囲を決める方法を扱います。カテゴリMの締めくくりとして、作る前の設計図をここで完成させます。

このスライドのポイント

  • M-09: 完成の判定線=受入条件を、観測可能な形で書いた
  • 課題・要件・ストーリー・受入条件までそろうと、作りたいものは一通り言葉になる
  • しかし、それらを一度に全部は作れない
  • この講義の役割: 価値ある機能に順番をつけ、今回作る範囲を決める

優先順位とスコープの定義

優先順位とスコープの定義

優先順位とは、機能を作る順番の判断です。判断には5つの基準を使います。1つ目は価値、M-08で見た「なぜなら」の強さです。2つ目は緊急度、いつまでに要るかです。3つ目は依存関係で、先に無いと作れないもの、A-10の学習依存と同じ構造です。4つ目はリスクで、不確かなものを先に検証するというM-07の考え方につながります。5つ目は工数です。スコープとは、今回作る範囲のことです。核心は、スコープを「やること」だけでなく「やらないことリスト」でも定義する点にあります。

このスライドのポイント

  • 優先順位=機能を作る順番の判断。判断に使う5基準:

なぜ優先順位とスコープが必要か

なぜ優先順位とスコープが必要か

優先順位とスコープを決めないと、どの機能も大事に見えて全部に手をつけ、結局すべてが中途半端になります。特にスコープが「やること」だけで定義されていると、途中で思いついた機能が際限なく入り込みます。これをスコープクリープと呼びます。作る速度が上がったバイブコーディングでは、機能はいくらでも足せてしまうため、かえって「何を作らないか」の判断が重要になります。範囲を決めることは、諦めではなく完成へ近づく手順です。

このスライドのポイント

  • 決めないと、全部大事に見えて全部に着手し、全部が中途半端になる
  • スコープが「やること」だけだと、途中の思いつきが際限なく混入する=スコープクリープ
  • 作る速度が上がったバイブコーディングでは、機能はいくらでも足せる
  • だからこそ「何を作らないか」の判断が価値になる

全体の構造

全体の構造

全体像は2つの部品でできています。1つ目は、5つの基準で機能を見比べる判断表です。価値・緊急度・依存関係・リスク・工数の列に、機能ごとの高い低いを並べ、作る順番の議論をします。2つ目は、スコープの2列表です。「今回やる」と「今回やらない・理由付き」を並べて書きます。ここで大切なのは、「やらない」は捨てるという意味ではなく、「次回以降へ送る」という判断だということです。だからこそ、その理由を必ず添えます。

このスライドのポイント

  • 部品は2つ

経費精算アプリでの具体例

経費精算アプリでの具体例

経費精算アプリの第1弾を例にします。今回やる機能は、スマホからの申請、申請の一覧、そして承認の3つです。今回やらない機能は、集計出力、レシートの文字読み取り、通知の3つです。集計出力は月末まで不要なので次回以降へ送ります。文字読み取りはリスクと工数が高いため、まず手入力で仮説を確かめてから判断します。通知は当面、手動の連絡で代替できます。このように、やらない理由まで書けると、関係者が納得しやすくなります。

このスライドのポイント

  • 経費精算アプリ第1弾のスコープ

技術サンプルカード(table)

技術サンプルカード(table)

スライドの採点表は、機能を5つの基準で見比べた例です。採点の目的は、精密な点数を出すことではなく、順番を議論するための土台を作ることにあります。申請・一覧・承認は価値と緊急度が高く、依存関係の順に第1弾へ入りました。文字読み取りはリスクと工数が高いため後回しです。下のやらないことリストには、送り先と理由を必ず添えています。AIには「この機能一覧を5基準で採点し、第1弾のスコープ案とやらないことリストを理由付きで作ってください」と頼めます。

このスライドのポイント

  • 種別: table
  • 目的: 機能を5基準で採点し、第1弾のスコープとやらないことリストを作る土台にする
  • サンプル本体:

混同しやすい概念

混同しやすい概念

混同しやすいのは、「優先度が低い」と「考えていない」の違いです。優先度が低いとは、5つの基準で見比べた上で、今回はやらないと判断した状態です。一方、考えていないとは、そもそも俎上に載せておらず、判断そのものをしていない状態です。やらないことリストは、その機能をきちんと検討した上で見送ったという証明書になります。だからこそ、後から「なぜ入れなかったのか」と問われても、理由を示すことができます。

このスライドのポイント

  • 「優先度が低い(やらない判断をした)」vs「考えていない(判断していない)」

バイブコーディングでの確認点

バイブコーディングでの確認点

バイブコーディングでの確認点です。AIに開発を頼むときは、スコープ表ごと渡し、「やらないことリストにある機能は、提案されても実装しないでください」と伝えます。AIは親切に機能を足そうとするため、これはスコープクリープのAI版を防ぐ指示になります。質問例としては、「この機能一覧を5基準で採点し、第1弾のスコープ案とやらないことリストを作ってください」が使えます。作り始める前に、この一言を必ず添える習慣をつけましょう。

このスライドのポイント

  • AIに開発を頼むときは、スコープ表ごと渡す
  • 「やらないことリストの機能は、提案されても実装しないでください」と明示する
  • AIは親切に機能を足そうとする=スコープクリープのAI版を防ぐ
  • AIへの質問例: 「この機能一覧を5基準で採点し、第1弾のスコープ案とやらないことリストを作ってください」

一問一答とまとめ

一問一答とまとめ

最後に一問一答です。スコープを定義するために必要な2つのリストは何でしょうか。(間)答えは、やることリストと、理由付きのやらないことリストです。30秒まとめです。優先順位は価値・緊急度・依存関係・リスク・工数の5基準で判断し、スコープはやることとやらないことの両輪で決めます。これでカテゴリMは修了です。課題から要件、受入条件、そして作る順番まで、作る前の設計図がそろいました。次回からはカテゴリN、この要件を構造へ翻訳する設計に進みます。

このスライドのポイント

  • 一問一答:「スコープ定義に必要な2つのリストは?」→ やることリストと、やらないことリスト(理由付き)
  • 30秒まとめ: 優先順位は価値・緊急度・依存関係・リスク・工数の5基準で判断/スコープはやること・やらないことの両輪で決める
  • カテゴリM修了——課題から要件、受入条件、作る順番まで、作る前の設計図がそろった
  • 次回: カテゴリN、要件を構造へ翻訳する設計へ
  • 関連資料: 「MVP設計テンプレート」「AIでアプリを作る前に決める10項目」「PRD簡易テンプレート」